【撤退は失敗じゃない】未来の成功のために設計する新規事業の賢い撤退基準
最終更新日:2025年10月19日 | 投稿日:2025年10月15日
新規事業を立ち上げるとき、チーム一丸となって「絶対に成功させる!」と信じ、大きな情熱とエネルギーを注ぎ込みますよね。しかし、世の中のニーズは厳しく、残念ながらすべてのプロジェクトが市場に受け入れられるわけではありません。
多くの企業では、事業の撤退を決断することを「失敗」だと捉えがちです。そのため、「もう少し続ければ光が見えるかも」「担当者に申し訳ない」といった気持ちから、判断を先延ばしにしてしまうことがよくあります。
ですが、本当に一番ネガティブなのは「撤退」なのでしょうか?
現代のビジネス、特に新規事業においては、迅速かつ合理的な撤退は、単なる終了ではありません。それは、限られたリソース(資金、時間、人材)を最も可能性のある場所に再投資するための「戦略的な意思決定」なのです。賢い事業家は、むしろ撤退を未来の成功へ向けた賢明な一歩と捉えます。
この記事では一見ネガティブな撤退に焦点を当てて、どういった際に撤退を考えるべきか考えていきます。
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目次
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最も避けたいこと:「PMFなきリソースの浪費」の恐怖
私たちが新規事業で最も避けなければならないのは、撤退することではなく、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の明確な兆候がないサービスに、ただ「惰性で」リソースを投入し続けることです。
これは、組織の体力と成長のチャンスを奪い去る、最大の機械損失をもたらします。具体的に、どんなリソースが無駄になってしまうのかを見てみましょう。
1. 広告費の無駄遣い
顧客が製品に「これがないと困る」というレベルで価値を見出していない場合、広告でいくら新しいユーザーを集めても、彼らはすぐに離脱してしまいます。
例えば、月に50万円をかけて広告を出したとします。しかし、集めたユーザーのうち、次の月もサービスを使い続けてくれる人がわずか5%しかいなかったらどうでしょうか。
残りの95%のユーザー獲得に使った費用は、サービスの定着につながっていません。これは、予算が効果なく流れ出てしまっている状態であり、「貴重な予算(未来の種)の垂れ流し」に他なりません。
2. 優秀な人材の機会損失
優秀な人材(エンジニア、デザイナー、マーケター)の給与と時間は、会社にとって大きな資産でありコストでもあります。彼らが成長の難しい事業に時間やスキルを費やしてしまうとで、成功している既存事業の改善や、もっと有望な次のプロジェクトで大きな成果を出せたかもしれないという機会損失が生じます。
本来、組織の柱となるはずのベテランエンジニアが、ユーザーがほとんどいないサービスで発生するマイナーなバグ修正に週の8割の時間を費やしている状況を想像してください。その8割の時間を、会社のメイン収益源である製品の機能開発に使えていれば、会社の収益はもっと伸びていたかもしれません。
このように、時間も費用も「貴重な資源」です。経営者や事業責任者は「資本分配が最適になってるか?」を会社全体で常に考え、ベストな意思決定をしなくてはならないと考えます。
3. 経営層の集中力の分散
経営層の「時間」は、社内で最も貴重で代替がきかないリソースです。彼らの集中力は、会社の未来を左右する最も戦略的で重要な課題(例:未来への地図描き、最新情報収集、四本政策の検討、組織アップデート、次の柱となる事業の探索、M&Aなど)に注がれるべきです。
しかし、PMFの見込みがない事業が延命されていると、その事業の進捗報告、問題点の議論、撤退を巡る社内調整といった「終わらない会議」に経営層の時間がどんどん消費されていきます。
例えば、毎週月曜の午前中に2時間の経営会議があったとします。そして不調な新規事業Aに関する報告と議論に、毎回30分が費やされているとします。この30分を1年間(50回)続けると、25時間、つまり丸3日分以上の経営層の労働時間が、成功の見込みの薄い議論に消えてしまうことになります。この時間を、他の成長事業のボトルネック解消や、全く新しいイノベーションの検討に使えたとしたら、会社全体の(引いては日本社会全体のGDPの)成長速度は大きく変わっていたはずです。
この集中力の分散こそ、目に見えない最大の機会損失なのです。
撤退のメリット:なぜ「やめること」がポジティブなのか
「やめること」は、単なるストップボタンではなく、組織を活性化させるためのアクセルとなります。
リソースの戦略的再配置
撤退を決めれば、その事業に投じていた資金や人材が解放されます。これがリソースの再配置です。
解放された予算やチームを、「確実に成長が見込める」既存事業や、データに基づき「より可能性が高い」と判断した次の新規事業にすぐに振り向けることができます。これは、限られた経営資源を最適化する、極めて合理的な判断です。
組織の学習と合理性の向上
撤退プロセスを通じて、「なぜこの事業は市場に受け入れられなかったのか」という深いインサイト(洞察)が得られます。
たとえば、「ターゲット顧客は確かにこの問題を抱えていたが、私たちのソリューションにはお金を払う気がなかった」といった貴重な知見です。この失敗から得たデータこそが、次の挑戦の成功率を高める貴重な資産となります。
また、「ダメなものには固執しない」という合理的な判断文化が根付くことで、無駄な社内政治や精神的な負担が減り、組織の健全性が高まります。
経済的なダメージの最小化
「もう少し続ければ…」という希望的観測で判断を遅らせるほど、損失は雪だるま式に膨らみます。早い段階で投資を止めることは、損失を限定し、会社全体の財務状況を守るための賢い選択です。
感情論に頼らない。具体的な「撤退基準」の設計
撤退の意思決定を感情論から切り離し、スムーズに行うためには、事業を開始する前に、明確な「撤退基準」をデータに基づいてルール化しておくことが不可欠です。
最低限、以下の3つのKPIを定量的に定義しましょう。
1. PMFシグナル基準(定着率)
製品がユーザーにとって不可欠なものになっているかを測る最も重要な指標です。
【基準例】
「ローンチ後6ヶ月経過した時点で、新規ユーザーコホート(ある月に入ってきたユーザー集団)の翌月リテンション率が目標(例:20%)を3ヶ月連続で下回った場合。」
例えば、最初の3ヶ月間で毎月100人新規顧客を獲得したとして、6ヶ月後に継続利用している人がずっと10人以下(リテンション率10%未満)だった場合、製品がユーザーの習慣になっていない、つまりPMFに達していない可能性が高いと判断できます。
2. 経済性基準(LTV/CAC)
事業が儲かる構造になっているかを測る指標です。健全な事業は、顧客獲得単価(CAC)よりも顧客生涯価値(LTV)が大きく上回る必要があります。
【基準例】
「顧客獲得単価(CAC)が顧客生涯価値(LTV)を上回る状態が、3ヶ月連続で続いた場合。」
顧客を一人獲得するのに広告や営業コストで1万円かかっている(CAC=1万円)のに、その顧客がサービスを通じて会社にもたらす収益の総額が5千円にしかならない(LTV=5千円)状況が続けば、事業を拡大するたびに赤字が膨らみます。この状態は即座に停止すべきシグナルです。先々にもっと赤字が膨らみます。
3. 市場適合性基準(顧客の熱量)
定量データだけでは見えない、顧客の「熱量」を測るための基準です。
【基準例】
「目標ターゲット顧客へのインタビューやNPS調査で、『このサービスがなくなったら非常に困る』という強い利用継続意向(熱量)が明確に確認できない状態が続いた場合。」
【具体例】 NPS(ネット・プロモーター・スコア)のような手法を用いて、サービスを人に薦めたいか、使い続けたいかを尋ねるアンケートを実施し、否定的な回答が続出する場合、いくら機能を追加しても根本的なニーズを満たしていない可能性が高いと判断できます。
これらの基準に基づき、「誰が(例:事業責任者、経営会議)、いつ(例:四半期に一度)、何を根拠に判断するのか」という意思決定のプロセスまで明確にしておくことで、迅速で合理的な撤退が可能になります。
結論:戦略的撤退は「未来への投資」である。
新規事業における撤退とは、過去を振り返る行動ではありません。それは、組織に与えられた限られたリソースを、未来の大きな成功のために賢く再配分する行為です。
そして一番大切なのは「経営者」です。新規事業を始める際には、成功のビジョンを描くと同時に、「どの時点で、何のデータが出たらやめるのか」という「撤退のゴールライン」を「経営層がしっかり示して設計すること」が、「会社として必要」と私は考えます。
なぜなら、現場を任された事業責任者やチームは「自ら撤退を申し出る」事はとてもし辛いからです。
最悪の場合、メンタル不調や離職によって貴重な人的資本を削ってしまう事も往々にして見ております。
あなたの会社の新規事業の撤退基準は、明確にデータに基づいて設計されていますか?ぜひ、この機会にチームで合理的な議論をして「5年後の未来を見据えた意思決定」に挑戦してみてください。
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